いつか ここから
episode -2-

エピソード -2-

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 桜はAIなので俺のゲームキャラを操り、ここで夕杏と行動していた、だから、こうやって俺を介さずに夕杏と何やら話しているのを見ると不思議な光景だ。
 自分はこの世界の一員となっていて、外部から桜が干渉しているのだ。
 はっきりしたのは、ここがテストサーバーの世界で、なぜかそこに俺がいるという事だな。

 俺には聞こえないように行われていた、夕杏と桜の打ち合わせ会議も済んで、食事も終わったのでギルドへ行く事にする。

「お勘定、置いとくからね~」
「はいよ、また来ておくれよ」
「じゃあ、ご馳走様でした~」
 ゲームであったらなら、ギルド迄は走って移動するところだが、今は歩いてる、夕杏も並んで歩いてる、モニター越しになると急いでしまうが、実際にここに居ると、これが自然に思える。

「やじさん、なんでここに居る?」
 後ろから声をかけられ振り向くと、ガンちゃんが居た。

「あれっ、奇遇ですな、これからギルドに行こうと思ってたのに」
「いや、なんで… まあいいか、とりあえずギルドに行くか」
「ほい、どっか出かけてたのかい?」
「あ~、隣村が何かに襲われたみたいでな、情報収集ってやつさ」
 村が襲われるなんて、今まで無かったのにな? モンスターも独自に動けるようになったのか、それなら起こり得るか? などと考えているうちにギルドに着く。

「ところで、やじさん、なんでここに居るの?」
 スルーしようと思ったが、やはりダメなようなのでこれまでの経緯を説明する事にした。

「…と言う訳だ」
「ふ~ん、厄介な感じだが、まあ頑張れw まあ、夕杏は良かったのかw」
「ガンちゃん、夕杏の事は、言わなくていいからね」
「分かってるって。 で、やじさん さっきの話なんだが、どうもワイバーンらしいのが一頭現れて、羊をかっさらっていったらしい、抵抗した人が5人ほど怪我を負ったらしいが、被害はそれくらいらしい。」

「ねえ、基本的な質問なんだけど、ワイバーンなんて、此処に住んでたっけ?」
「だから、らしきものって言ったじゃん…、夕杏から聞いたんだが、プレイヤーが居なくなって、この世界が変わってしまった事に関係するかも? と睨んでるんだがな。 それにやじさんもいるって事も、なんか怪しい」
 居るはずのないワイバーンと、俺か? 直接の関係はないけど、原因は同じとこら辺だな。

「で、どうするの? ガンちゃん」
「とりあえず、村に行ってみるさ、暇なんだろ? 一緒に行こうぜ」
「夕杏、どうする?」
「夕杏はどっちでもいいよ」
「うん、行くか」
「じゃあ準備するから、少し待っててくれ」
 ガンちゃんはギルドマスターでNPCとしては中々強い方だった。
 一度だけミッションでお世話になったが、あの攻撃魔法だけは誤爆したくないと思う程強烈であった。 夕杏のレベルが変わってないので、ガンちゃんの魔法もご健在のはずなので安心できる。
 まあ、物理破壊力No.1の俺がいるからな、少しくらい大物でも問題ないだろう。ムフッ

「やじさん、また、なんか変な事考えてるでしょ、口が開いてるわよ、みっともない」
「いろんな事が続いてるので、疲れただけだ、それに誰も居ないじゃん」
「お待たせ、 なんだケンカか? 仲いいんだな 相変わらずw」
「いや、只のおしゃべりですから、 それでどうやって行く?」
「馬を使うと、なんか出たら驚きそうだからな、歩いていくか?」
「OK、最近ぼんやりしてたからな、運動がてらに丁度いい」
「おし、じゃあ行こう」
 この街の名はファーストタウン、人口500人程の小さな町だが、高価なもの以外は一応何でも揃っている。
 隣村の名は? いいか、とにかく小さく15件ほどの農家が牛や羊なども育てて生活しているので、羊一頭でも大損害になるはずだ。 それと、街からはそれほど遠くなく、子供の足でも30分位である。

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「おっ、村が見えてきたぞって、みんなで上を見てやがる」
「やじさん、ガンちゃん、なんか飛んでるよ」
「旋回して獲物を物色してるな、もう少し近づこう」
「了解!」
 飛んでいるワイバーンらしき者の旋回コースの下に木が生えていたので、その下に一応隠れたみた。

「もう少ししたら、この上を通る筈だ、距離は50mってとこか? やじさん、俺が乱気流で落とすから、羽根、もいじゃってw」
「うん、夕杏向かって右の羽根な、俺左」
「わかった」
「ロングソードでいいか?」
「やじさんならバターナイフでも良いんじゃない、夕杏は普通の女の子だから刀にするけど」
「だって、バターナイフなんて持ってないぞ」
「馬鹿じゃないの?」
「おい、ふざけるのはやめだ、来るぞ!」
「は~い」
 ガンちゃんは無詠唱でvacuumを放った。 空気抵抗を失った羽根は重力の法則によって体と共に地面にたたきつけられる。

「おい、出番」
 50mの高さから何の抵抗もなくなって落ちたのだ、もう死んでいそうだが体がピクピク動いているので未だ死んではいないようだ。

「夕杏、予定変更、狙いは首だ」
「オ~ケ~」
 一応、打ち損じの場合を考えてすぐ後をついて行ったが、夕杏の振動を纏わせた一振りvibrationであっさりと方が付いた。 この人たちとはずっと友達がいいな、と思ったのは言うまでもない。

「一振りか、相変わらずだな夕杏ちゃん」
「桜ちゃんが、剣は素直に引き下ろすのも良いけど、前後にビビらせた方がもっと切れるって教えてくれたの」
「桜ちゃん?」
「うん、もう一人のやじさんってとこかなw」
「やじさんが、桜? 笑える冗談だなw」
 おいおい、50m上から地上まで真空にするってのも驚いたが、刀を振り下ろしながら前後にビビらすなんてどうやれば出来るんだよ? 

「おーい 大丈夫か? ってギルマスが来てくれてたのか、助かったよありがとう」
「いや、俺は落としただけだ、後は、この二人が処理してくれた」
「お~、ありがとうよお二人さん、お礼っちゃなんだけど、コレ貰ってくれや」
 何やら勾玉のようなものを手渡れる。

「いつだったか、忘れたけど村を襲う魔物を退治してくれた者が現れたら渡せとの夢を見てな、朝起きたら枕元にあったんだわ」
 ムムッ これはひょっとしてクエストだったのか? この村にクエストが存在してたとはウィキにも載ってなかったぞ。

「確か一昨日の晩だったかな~?」
 えっ、最近なのか! とりあえず貰っておいた方がいいな。

「すみません、気を使わせちゃって、でも、そういう夢をご覧になったというのであれば頂いておきますね、 ガンちゃんいい?」
「あ~、いいとも、 どうせ俺には必要ないだろうしな。 それと村長、すまんがコイツの首だけ貰っていくわ、ちょっと調べたいんでね、後は… 少し手間だが残ったのは解体して街で売れば、取られた羊より儲けがあると思うよ」
「すまねーな、この皮の様子だと良い防具が出来そうだからな、たんまり儲けさせてもらうわ、肉は味見してからだな」
 大きな笑い声をあげ、満足そうな村長は大声で村人を招集し、早速皮剥ぎを始めたのだった。

「やじさん、悪いがそいつの頭をしまって運んでくれ、俺はアイテムボックス持ちじゃないんでね」
 ふと夕杏を見るとあっちの方を向いていた、やっぱり臭いものは俺か、ここは笑顔で引き受けよう。

「ハイ、よろこんで~」
「じゃあ、戻ろう」
 まあ、収納してしまえば臭いなんてしないんだけど、いや前向きに生きよう、報酬も貰った事だしな、さっさと戻ろう。

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「よし、じゃあこの木箱に頭を出してくれ」
「了解」
 50㎏位はありそうな頭が木箱に現れる。

「dry ice」
 なんか当たりまえ過ぎてスルーしそうだが、こんな魔法良いのか? 直径2cmと5cmのドライアイスの塊が交互にワイバーンらしき頭をそっと包んでいく。

「明日、ギルド本部に送って、鑑定してもらうさ、今日はありがとな、それとギルドからは報酬は出せないが、さっき村長からもらったやつはクエストの報酬だから、大事にとっておけよ」
「え~報酬ないの?」
「当たり前だろ、様子を見に行っただけなんだから、それに相手が何か分からんうちは報酬額なんて決められないしな」
「わかったよ、どうせ俺、なんもしてないし」
「夕杏ちゃんには、やじさんから報酬出しておいてよ、ちゃんと仕事したんだから」
「へ~い、じゃあ晩ごはんという事で」
「夕杏はスイーツもほしいな~」
「わかったよ、んじゃ今日は帰るか、じゃあまた来るわ、ガンちゃん 後で鑑定結果教えてね~」
「お~、またな」
 んー、後は飯食って寝るだけか、違う…桜が居た。

「なあ夕杏」
「なぁに?」
 うん、可愛い。

「今夜、ほら、桜と話しするだろ」
「うん」
「俺が最初、話して聞きたい事言うから、その後、聞いといてくれるかな?」
「いいよ、べつに~」
 よし、これで最初に行われるであろう桜の質問攻めを、ある程度短時間で回避出来れば、後は面倒がない、少々の罵倒は誤差の範囲だ、後は二人に身を任せよう。
 AI同士の話は早口で何を言っているか理解できないが、とりあえず俺の要望する答えは、後で夕杏から必要な所だけ聞き出せばいい、適材適所って言うやつだな。

「わりいな、桜の早口って、よく聞き取れない時があってさ」
 嘘ではないので、騙した事にはならない筈だ、声をだしてしまうとログを取られている恐れがあるしな、真実を選んで、誤解のおきない言葉で話して行こう。

 さっき昼飯の時、あいつらは小さな声で秘匿しようとしていたが、かすかに聞こえた二人の言語は、もはや人類のものではなかった、1と0? モールス信号が絶え間なく小鳥のようにさえずっている様だった。
 ほんの一瞬、聞いてても分からないぞって言いたかったが、優位性を一つ失うような気がして、押しとどめたのだ。

「じゃあ、晩飯は違うとこで食べようか? スィーツのある店でw」
「うんw」

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