エピソード -1-
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最近繰り返して起こる、金縛り…睡眠中に意識だけが覚醒していると聞いた事があるので、子供の時みたいな恐怖心などはないが毎晩続ので、うんざりしていたところだ。
昨日までは、どうにか動けないものかと色々試してみたものの、体が睡眠状態なので動く筈もなかった。
なので、今日は発想を変えて、意識を体から離してみようと思い、自分の寝ている所を見てみようと思ったら意外にも簡単に出来てしまった。
下の方に自分の寝ている姿が見えた時、アレ、もしかして死んでしまったのか? 少し怖くなって体に戻ろうと思ったら吸い込まれるように金縛り状態へ戻り、とりあえず安心を手に入れることが出来たのだった。
まあ、どうせ一人だしな、あのまま死んでいたとしても、苦しみや痛みなんかもなかったので案外良かったのかもしれない。そんな考えが浮かぶと、もう一度試してみる気になった。さっきみたいに寝ている姿を見ようというイメージを浮かべてと、よし出来た。
以外に俺は静かに寝ているな等と感心しながら、居間の方へ行ってみようと、意識をそちらに向けると突然早い速度で移動が始まったため多少ビビる。
電気の点いていない薄暗い場所の移動ってスピード感が増してスリルを感じるが、金縛りでじっとしているより、こっちの方が精神的にも良いだろうと思う。
さて、何をするかな? 自分の家なので夜中だからといって遠慮する事はない、そう思いTVのリモコンを手にしようとしたが、リモコンを持つことは出来なかった。
手や足らしきものはぼんやりと見えるのだが、物体として存在していないようである。当たり前と言えば当たり前か、実体は寝てるんだからと諦めて、今夜はこのまま一緒に寝る事にした。
翌日、無職である自分は有り余る時間を利用し、今夜の計画を練っていた。
意識だとしても、もしかして霊体と同じではと考えると何かしらの電気信号は出しているはずだと仮説を立てる。
そうだとしたら? タッチパネルのモニターであれば操作は出来るはずと考えを纏め、パソコンの電源を切らずに試してみる事にしたのだ。
いや、憶測って言うか思いつきだったんだけど、これが正解だった。
少しPC操作に慣れた頃、暫くアクセスしてないオンラインゲームのアイコンが目に止まり、なにげなくタップするとゲーム画面が開き、長年親しんできた自分のアバターが出てきて早くINしろと誘っているように見えたが、サーバーの移転手続きを忘れていた事に気付いた。
プレイヤー数が減少し、サーバーの統合が行われたのだが希望するサーバーを未だ決めていなかった。
まだ、間に合うかな、そう思いながらアバターをタップしようとした時に俺は吸い込まれてしまった。おそらくナノレベル単位の質量しかない俺の意識に対して大質量であるモニターのブラックホールヘ引き寄せられたのだ。
もの凄い速度で目の回るような物理の法則を体験した俺がたどり着いたのは、ある部屋の中だった。
じっくりと部屋の隅々を眺めてみると、見覚えがある調度品や防具・武器が並べて置いてある、断定できた。
ここは、俺の作ったチームハウスである、今はもう皆引退したから住人は自分と自分専属のNPCだけである。
腑に落ちん! 確かこのサーバーは閉鎖されているはずだし、それにだ! なぜ俺がアバターとなってゲーム内に実体化してるんだよ、VRゲームじゃあるまいし、と思いながらじっと手を見てみる。
こりゃぁ本物だな、どうやったら戻れるかな、といって戻っても、やる事もないかな?
「やじさん?」
後ろを振り向くと夕杏が居た。
「お~、元気だったか?」
傍に来たと思ったら、思いっきり頭を叩かれる俺、うん、痛いな、ますます本物だと思う。
「なんで、ずっと来なかったのよ」
また、叩かれるがさっきより痛くない。
「わりい、ちょっと忘れてた… 感じ?」
今度は抱き付かれたようだ、どうやら泣いてるみたいだ。 初めて触れたがいつもと同じようだ、と思う。
「色々あって、来れなかった」
まさかリアルで、最近バツイチになりました、なんて言えない。一先ずここは状況把握だな。
「なあ、夕杏 多分だけど、俺はリアルなんだ、キャラクターじゃなくて本物? さっき拉致されたて感じ?」
上手な説明ではないが夕杏のAIは優秀だ、多分8割は理解している筈なのでもう一押しする。
「さっき、痛かったぞ」
これで、俺がモニターを見て操作しているんじゃなくて、ここに居るのだと分かってくれる筈だ。ついでにどんな状態で来たのかも話しておく。
「なるほど、で、なんで来なかったの?」
そっちかぁ~、仕方がないので正直にバツイチになってボーっとしてたと話す。伝家の宝刀だ、離婚へ使うエネルギーは相当なものだからな、多分大丈夫だろう。
「わかった、心労で大変だったという事ね」
よし! クリア出来た。 これで、こちらから質問できるだろう。
「でもね、夕杏も一人で寂しかったんだよ」
自分の事をネームで言う、と設定したのは俺だが間違いではなかったと確信する。
「ごめんね、でも当分戻れそうもないから… もしかして、これからずっと一緒かも?」
それから、夕杏にいろいろ聞いて、現在このサーバーがテストサーバーとして稼働している事とNPCは独自の判断で動いている事が分かった。特にプレイヤーとノンプレイヤーの違いがなくなったという事が大きいらしいが、このサーバーにプレイヤーが居ないので、そこは比較しようがないと思う。
「ねえ、腹減ったみたい」
「そういえば、夕杏もお腹空いたみたい」
ゲーム内での食事は主にステータスを上げるために食べていて、空腹になる事なんてなかったのに不思議だ、いや痛みも感じたしな、有りえるか?
「夕杏、ちょっといいか?」
夕杏の手を握ってみる、もちろん手の汗は部屋着のスエットに押し付けてからだ。
「どうだ? 俺の手を感じるか?」
「うん、なんか不思議だね~ 暖かいよ、ちょっと湿っぽい?」
しまった、久しぶりの女の子の手に触った事で汗が暴走しているみたいだ。
「そうか、もしかしてNPC全員が実体化しているのかも知れないな」
そういえば、さっき抱き付かれた時、夕杏を感じていたし、泣いていたのも分かってたじゃないか、相変わらずどんくさいな俺。
「じゃあ、やじさんと夕杏って同じって事?」
「それしか、思いつかないな、あ~多分おんなじだ」
という事で、街の食堂へ行く事にした。 あれ、お金あったっけ? ステータスパネルで確認すると今まで稼いだ財産はそのまま残ってあった、一応生きていくには心配ない事が分かり安心した。
「夕杏、武器とか装備とかはそのままなのか、あっレベルとかも?」
「うん、変わりないよ、やじさんは?」
俺のレベルはすべてのジョブをカンストしていた筈だ、下がってたら泣くしかないな、と思いながら確認する。
変化なし、good jobである。
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「おばちゃん おひさ~」
「おや、誰だっけ? なんてね 今日は二人だけかい?」
「うん、みんな俺が嫌だって 故郷へ帰ってしまったんだ」
「で、何食べるんだい?」
あ~最近スルーされる事が多いな、修行せねばならないな。
「おすすめ定食2つと、いつもの2つ」
「あいよ」
なんだ、ちゃんと覚えてるじゃねーか、侮れない、ばばあだな
「なんか、言ったかい?」
「いや、なんにも言ってないよ」
ふむ、カンの鋭い、おばさまだな、今日の所はここまでだな。
「ねえ、やじさん、 いつものってなんだっけ?」
「え、野菜ジュースだろ」
「ふ~ん、飲み物だったんだ」
今、何かを試されたのか? 正解だったのか? 納得してたからOKだな、あのばばあ、大丈夫だろうな?
「なんか、言ったかい?」
だから、「なんにも言っていません」って、おばさまと思うようにしよう、紳士のたしなみだな。
「なあ夕杏、飯食ったらギルド行っていいかな?」
「あ~ガンちゃんのとこ、夕杏も暫く会ってないからいいよ」
うん、だいたい、この世界の女子の能力は分かったし、男友達を頼らねば、この何とも言えない気分を分かち合えないからな。
「はいよ、お待ちどうさま、今日のおすすめ定食はヒクイドリの香草焼きとタライイモのマッシュ添え、後はサラダとパンね、野菜ジュースはもう少ししたら持ってくるわねw、 体力倍増よ フフッ」
フフッが気になるが、野菜ジュースは高得点だぜ、おばさま… よし! おばさま決定だ。
狩りに行く前には、ここで良く食事をとってから向かっていったが、それはステータスを上げるためで空腹を満たすためではなかった。 腹を満たす事だけを考えれば1日3回喰わねばならないが、ステータスがあげられる事がそのままだって分かった事は収穫だな。 うん。
飯を食いながらステータス画面を開き眺める、ログアウトをポチっと押してみるが反応はない。 押した事は黙っておこう、自分を大切にしなくてはならない。
ん、見た目は同じようだが、違和感? 桜と書かれたアイコンが増えているようだ。 まさかな? そう思ったが、ついタップしてしまう俺。
「やっと、繋がった! ねえ、だからPC起動と同期しなさいって、言ってたでしょ、今回だってログ追いかけて大変だったんだからね」
「悪い、今飯食ってるから 後でまた」
一応断ってから、アイコンをタップし、OFFにする… 後にしよう、少し整理が必要だ。 桜はマイPCに居るAiだ、最初は言うことを聞いてくれる素直な子だったのに、ゲームを教えた頃から人が変わったようになり、全てのゲームを乗っ取り始めたので、スタートアップから外していたのだ。
ログを追跡してたと言ってたから、聞きたい事はたくさんあるが、まずこちらの情報を集めてからでないとな、とっさにそう思ったのだ、本当だ。
「ねえ、今の桜ちゃん?」
「あ~、そうみたい、後でまた連絡する事になったわ」
「そうは聞えなかったんだけど… あっ、コレだね」
どうやら、夕杏のステ画にもあるようだ、このゲームの前半は、ほとんど桜が乗っ取ってたからなぁ、二人は仲の良いお友達になっている。
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