いつか ここから
episode -5-

エピソード -5-

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 今俺達はギルド本部に居る、依頼主の本部長の部屋だ。 いかにもギルドのトップですよ的な顔なのに、夕杏と桜を前にしてニコニコとリップサービスを展開している。

「そんな、ちっちゃくて可愛いのに、調査になんて行って大丈夫なのかな? おじさんも一緒について行っちゃおうかな~」
 おい、どこからそんな声が出てくるんだと、ガンちゃんを見ると、黙って茶をすすってるので、いつもこんな感じなのだろう、と推測する。

「ねえねえ、本部長ってなんかすごい渋いよね、夕杏ちゃん」
「うん、カッコいいw、 なんか男らしいよね~」
「そうか、そうか、Wahahaha,haha-」
 こいつら、別の方向から信頼を得ようとしてるらしいが、互いに露骨すぎて探り合いをしてるとしか、思えないのだが…。

「本部長、そろそろ本題に」
 さすが、ガンちゃんw いい仕事だ

「そうだったな、すまん、ンッ、 他の場所でも空を飛ぶモンスターが目撃された事は連絡済だとは思うが、実はな…」
 無駄の多い本部長の話をまとめると、こうだ。 空飛ぶモンスターの他にも見慣れぬモンスターの目撃情報がいくつかあって、他国のギルド本部からも報告があったそうだ。
 ギルドという組織は所属国に関係なく一組織なので、情報は共有してるそうだが、それぞれの国の政策には干渉しない事が一応建前となっているらしい。
 したがって、他国の出来事の報告は来るが、依頼がない限りギルドとして、口は出せるが手を出さないとの事らしい。

「まあ、そういう事なんで、この国で報告があった、2か所の調査をお願いしたい、と言っても10km程しか離れてないので、対象は1体と見ていいだろう、と思う」
「それで、目撃情報の詳細は?」
 ギルマスは、机に置いてあった2枚の紙を手に取り、俺たちの方へ差し出した。 

「いずれも、地元の樵と猟師の証言が基になっているから、大きさや飛んで行った方向に間違いはないと思うが、もう一度直接聞いたほうが良いだろう、文章では分からない事もあるからな」
「二人とも、ミハラ村の住人なんですね?」
「あ~、二人とも幼馴染でな、不安になって急いで村へ帰って話したところ、同じような話をしてる幼馴染が居たって事さ、小さい頃から一緒に過ごしてきた仲間だからな、目撃時間も大体同じ頃なので、これは絶対見間違いじゃねえって、事になったみたいでな、それで報告してきたみたいだ」
「ふむ、丁度、西と東にいて二人とも北へ向かって飛んで行ったと報告してますね、この地図で言うと、この山へ向かったという事で良いんじゃないですか?」
「それじゃあ、この依頼、受けるって事でいいんだな?」
「受けるから、来たんだろうが」
 ガンちゃん、勝手に受けちゃったけど、そのつもりだったから良いのか、夕杏と桜も来たがってたしなw 

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 翌日、ミハラ村へ着いた俺たちは村長の所で目撃者の2人と会って話を聞き、その後、それぞれの目撃現場に行って現在UMAの状態であるモンスターの着陸予想地点の割り出しを行っている。 前回みたいに、村に直接被害が出ている訳ではなかったので、村の人達も落ちついた感じで俺たちに接してくれた。

「今までの話をまとめると、やはりメイソウ山の8合目あたりだな」
「だね、早めに正体を確認したいし、今日中に麓まで行っておくかい?」
「野宿か~、女の子たちは大丈夫なのか、やじさん?」
「あら、私達なら大丈夫よ、桜ちゃんの結界魔法は具現化できますから4LDK位なら3秒よ!」
夕杏の補足説明によると、パネルハウスみたいに結界を構築し、ログハウス状になるらしい。 桜と遊んでた時は、よくお世話になったらしいので、大丈夫なんだろう。

「よし、それじゃあ行くか」
「は~い」!!
 日没までには、4時間くらいあったので、晩ごはんの獲物を狩りながら進み、山の手前にある森の入り口に着いた。

「良し、ここで良いだろう、今日はここでキャンプだ」
「じゃあ、桜、この辺に結界張ってくれ」
「わかったわ、桜式防衛結界術零五型六六四ト、発動!」
特に音もなく目の前にログハウスが現れた、俺も結果魔法は使えるが自分たちの周りを囲むバリアの様な感じだから、ツッコミどころが満載だ。

「桜ちゃん… どういう仕組みなのか後で教えてくれ…」
「うん、いいよw」
 ガンちゃん、分かるぞ、その気持ち。

「じゃあ、夕杏と俺で晩飯の用意するから、桜はガンちゃん魔法談議でもしててくれ」
「仕方ないわね~、中に入りましょう、ガンちゃんw」
 桜の最初の説明はものすごく諄いからな、面倒な所はガンちゃんに引き受けてもらおう。

「夕杏、俺たちは飯の用意しようぜw」
「うん」
 食事の準備と言っても、来る途中で狩ったブタードン(豚型モンスター)は桜の創作調理魔法で適切に処理されているので火を通すだけで良く、あとは野菜を切る位だ。
 まあ、トマトソース風煮込みなので、大なべに入れて煮るだけなんだけど、洗い物が少ないのが良い所だ。

「夕杏、どうだ?」
「どれどれ… ん、やじさん、お肉入ってないよ?」
アッ、仕方がない、鍋をもう一個出して、肉を炒めて加える事にした…。 洗い物が少し増えたのと、食事の時間が30分程遅れただけだ、許容範囲内だろう。

「よし、出来たw」
「じゃ、やじさん鍋、運んでね~」
「ハイヨw」
 夕杏は先にバンガロー? に入って食器とパンを出している。 できた娘である。

「お待たせ~」
「遅い、やじさん」
「わり~、ちょっと肉を炒めて香ばしさを加えてみたんだw」
「ふ~ん、ま、いいわ」
「それじゃ、いただきます~」
「で、ガンちゃん、桜式魔法は分かったの?」
「あ~、この前、魔法創造・初級ってのを覚えたろ、そのおかげなのか、魔術式を書き換えたり、入れ替えたりが簡単に出来るようになったよ、まだ完全じゃないし、上限があって使いこなせないけどなw」
「へ~、そのスキルが上がればもっと便利になるって事ですよね~、 ところで桜、さっきの魔法で、桜式防衛結界術までは分かったんだが、その後の、零五型六六四トってなんだい?」
「相変わらずだなぁやじ君は、零は平屋、五型は結界魔法Lv5、六畳・4畳・4畳・トイレ付の術式である、ガンちゃんはここに入ってすぐに気づいたぞ…ゴホン」
「それを唱えれば、俺でもいけるのか?」
「ばかもの! これは改編した術式を覚えた上で、具現化を導く短縮系の言霊じゃ、脳筋のやじ君には、フフッ…いや、みなまで申すまい」
「なーんだ、そんなにめんどいなら要らないな」
「そういう、素直な所は好ましいぞ」
 まあ、桜が居れば出番はないしな、これに関しては終わる事にしよう。

「ん? 夕杏のこの前使った剣スキルvibrationってもしかして、これの応用か?」
「うん、そうだよ、基本技のdouble cutterって2回切りのスキル術式を無限リピートさせる言霊がvibrationなの」
「ほ~、武器に魔法を纏わせるような感じ、でいいのかな?」
「うん、そんなイメージだねw」
 スキルの術式なんて一回憶えりゃ、後はスキル名で発動するしな……、思い出せやしない。 焦らずに、じっくりと進めるべきだな。

「明日は、早めに出発したいんだが、明るくなったらすぐ、朝食にしてもらえるかな?」
「はーい、今日の残ったスープに小麦を加えて、今煮込んでるから、明日は温めるだけで食べられるよ」
 さすが夕杏ちゃん、ガンちゃんが真面目な男だと分かっていらっしゃる。

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 翌朝、食事を済ませた俺たちは、メイソウ山への一本道を進みながら、付近一帯のサーチを行っているが、大型モンスターの気配は無く、森の動物達ばかりが反応していた。

「もうじき、山頂がサーチ圏内に入るから、何かいるとしたら反応がある筈だが、無くても一応確認のためてっぺん迄登るぞw」
「わかってますって、仕事ですからね、きちんとやらなくちゃ、でしょ?」
「報告書を書かなきゃならないからな、よろしく~」
「って、ガンちゃん、なんか反応出たよ~」
「お、居たか、さてと…上まで登ると闘いになった場合狭そうだな、やじさん、ちょっと様子見ついでに、ここら辺まで連れてきてくれよ」
「はぁ~ぁ?」
「なんで? お前以外に誰が居る? なぁ、桜ちゃん」
「か弱いおなご二人と、魔法しか使えぬ男、この坂道は筋力・体力共に秀でた者にしか出来ぬ事だと、おぬしも理解しておるであろう?」
「分かってるよ、ただ他に参加者が居ないか確認しただけです~」
 文句を言っても始まらない、ガンちゃんの言う通り、上での戦闘はやりにくい、誰かが下ろさねばならないのだ。
 防具は持っている中で一番固い奴だし、出がけに防御魔法のアラカルトを詰め合わせで貰ったので、一撃でチ~ンはないに等しい、それにブーストイコライザーで防御力を上げているしな、多分何があっても大丈夫だ。
 サーチした目標まであと100m程になった所で、意外な声がした。

「遅かったな、人間」
「どちら様ですか?」
「わしを探しに来たのであろう、こっちから話がある、安心して、もっと近づけ」
「そう言われても、どうしようかな~」
「大丈夫じゃ、わしはもうじき生を終える、お前を倒すほどの力はもう、ない。 それと人の子を一人預かっている、引き取って欲しい」
「子供か? さらってきたのか!」
「違う、モンスターに襲われていた所を助けた、両親は間に合わなかったが、この子は無事じゃ」
「ふ~ん、それじゃぁ今から近づくけど、おとなしくしてくれてたらいいな~?」
「分かっておる、今のわしは、こうして話すのがやっとだ」
 嘘か本当かは分からないが、子供がいると聞いたら確かめねばなるまい、行くかw
 ゆっくりと近づいていくと、大きな岩陰の平な所に、白い竜の顔が見えてきた、鼻先に子供が横たわっているが、呼吸はしてるみたいだ。 どうやら嘘はついていないらしい。

「お~、白龍さんだったのか? どうしてここに居る?」
「わしにも分らん、さっきも言ったように、わしは生を終えるところだ、死に場所に相応しい適当な場所を求めて飛んでおったが、急にこの世界の穴が開いたみたいでな、あたりが歪んで見えたと思ったらここに居た、という事だ」
「どうしてその子を?」
白龍の大きな瞳が子供に向けられる。

「どうにか、元に戻ろうと思ってな、その辺りを飛んでいたのだが、モンスターに襲われている馬車が目に入ってしまってな…、もう少し早ければ、この子の親も助けてやれただろうに…」
「そうか、分かった、その子は俺が責任をもって、何とかするよ」
「ふん、人間の癖になかなか物分かりが良いな、ひょっとしてばかとか脳筋とか言われた事はないか?」
「ん? 無いとは言えないのが悔しいと言っておこう」
「そうか、ならば、そういう奴にぴったりの条件があるのだが、聞いてもらうぞ」
「なに? その展開? 脳筋向けの条件って何よ?」
「なに、お主みたいな人間には簡単な事だ、わしがこの子を助けたのも何かの縁…それゆえ、わしの力をこの子に授けたいと思う、しかし、まだまだ子供じゃ、わしの力を全て与えても、その力は未熟じゃ、だからお前が、この子が一人で生きられる、その時が来るまで守れ、それが条件だ」

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